第53回読書ミーティング報告①サッカーワールドカップと村上春樹の新刊の夏 何を取り上げるか――選書の舞台裏

2026年8月22日、第53回読書ミーティングを、三鷹駅前のSHOMA会議室とオンラインをつないだハイブリッド形式で開催しました。

植西先生の知人、Wさんが加わり、参加者は前回と同じ総勢10名。

今回から、その内容を5回に分けてご紹介します。

第1回は、いつものように、今回取り上げる作品をどのように選んだのか、その経緯から始めます。

日本人の誇りのために戦ったサッカー日本代表

惜しかった、本当に惜しかった。

サッカー王国ブラジルとの差は、ほんのちょっと。世界中からも「日本はあと一歩だった」という声が聞かれました。

オランダ、スウェーデンと引き分け、チュニジアに圧勝。盛り上がるに盛り上がり、「世界一」「見たことのない景色」なんて言葉が踊るようになったところで、サッカー王国ブラジルに惜敗。

ワールドカップが始まってから、日本代表の一挙手一投足に耳目が集まり、大きな熱の渦となりました。

ところが6月30日、日本代表が敗退すると、不思議なくらいワールドカップへの熱量が下がってしまった。

決勝は見るけれど、その前の試合はダイジェストで十分かな、という気持ちになった人も少なくなかったのではないでしょうか。私自身、そうでした。

ありがちなことではありますが、改めて考えてみると、なぜなのでしょうか。

世界最高レベルのサッカーを見たいだけなら、どの国同士の試合でも面白いはずです。

それでも私たちは、日本代表が勝つとものすごく嬉しく、負けるとものすごく悔しい。

その自分自身の気持ちを見つめながら、今回の読書ミーティングのテーマを思いつきました。

なぜ、日本代表が負けるとこんなに悔しいのか

なぜ、日本代表が勝つと、これほど嬉しいのか。

なぜ、日本代表が負けると、これほど悔しいのか。

そのことを考え続ける中で、ようやくたどり着いた一冊があります。

今回、ベストセラー・ノンフィクションとして取り上げたいのは、

『日本のために! 世界一に挑戦する日本人の「誇り」と「あり方」』(森保一・山藤賢)

です。

日本代表監督・森保一さんと、医学博士・教育者の山藤賢さんによる対談集ですが、その冒頭で山藤さんが、

「森保さんが世界一を取りたいと思っている理由を、心から湧いてくる言葉で教えてもらってもいいですか」

と尋ねると、森保監督は即座にこう答えます。

「日本のためにです。日本人の誇りを取り戻したいから」

この本では、「サッカーにはその国の文化が表れる」という視点から、日本人らしさや日本人の愛国心について、多くの示唆が語られています。

私自身、読み進めるうちに、自然と愛国心のような感情が湧いてくる一冊でした。

今回は、この本を手がかりに、「サッカーと愛国心」について皆さんと考えてみたいと思いました。

日本代表のサッカーと「武士道」はつながっている?

そして、その愛国心はどこから来たのか?

そんな観点から、現在の日本人のアイデンティティのルーツを考えるために、今回は新渡戸稲造の『武士道』をロングセラーとして取り上げることにしました。

『武士道』は、新渡戸稲造が、日本という国、日本人という人々を外国に伝えるため、英語で書いた一冊です。

そして、『日本のために!』と『武士道』は、今回はセットで考えてみます。

その上で、皆さんに一つ、大胆な仮説を投げかけたいと思っています。

日本のサッカーは、実は「武士道」に通じているのではないか。

そして私たちは、日本代表のサッカーの中に、自分でも意識しないまま、日本人が受け継いできた何か――新渡戸が『武士道』に描いた精神――を垣間見る。

だからこそ、日本代表が勝つと自分のことのように嬉しく、負けると自分のことのように悔しいのではないか。

そんな、いささか大胆な仮説です。

もちろん、「いや、それは違う」というご意見も大歓迎です。

 村上春樹さんの新刊

一方、ベストセラー・フィクションとしては、村上春樹さんの新刊『夏帆』を取り上げたいと思います。

村上春樹さんが新作を発表した以上、読書ミーティングで取り上げないという選択肢は、私にはありません。少々身勝手な結論かもしれませんが(笑)。

思えば1979年、中学3年生だった私は、その3年前、『限りなく透明に近いブルー』で芥川賞を受賞して以来、注目していた村上龍の新刊だと思い込み、村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』を買ってしまいました。

以来、47年間、私は村上春樹を読み続けています。

時代の寵児として、新しい若者群像の旗手として鮮烈に登場した、原色の光を放つような村上龍。

しかし、時代の先頭を走る村上龍よりも、文学を深く愛し、世の中や、すぐそばの友達に対しても少し距離を置きながら、自分だけの静かな世界を描く、淡彩の衣をまとったような村上春樹に、私は肩入れしました。

まだほとんど知られていなかった頃、

「村上春樹という、心に微風を吹かせてくれる作家がいるんだ」

と友人に話すのが好きでした。

『ノルウェイの森』が大ベストセラーになったときには、自分だけの友人だった人が突然人気者になってしまったような、不思議な寂しさも感じました。

ノーベル文学賞候補として世界中から注目されるようになってからは、この作家を長年愛し続けてきた読者として、感慨深いものがあります。

村上作品が世界中で読まれていることをどこか誇りに思うのも、私にとっては、一つの愛国心なのかもしれません。

ただ、今回の『夏帆』については、最初、少し違いました。

長年抱いてきた村上作品への信頼を、初めて揺さぶられた作品でした。

全体的に、少し緩いのではないか、と。

それならそれで、村上作品への自分なりの評価をしよう。

そう思って改めて読み返したとき、2度目の読書では、まるで違った光を作品から感じることができました。

これは、村上春樹が40年以上考え続けてきたテーマの、現在地なのではないか。

そう確信するに至ったのです。ちょっと極端すぎるかもしれません(笑)

そのことについては、このあとの回で、改めて触れたいと思います。

スポーツを通して感じる愛国心もあれば、日本の文学や文化が世界で認められることに喜びを感じる愛国心もある。

そして、もっと違った形の愛国心もあるでしょう。

今回は、一人ひとりが抱く、それぞれの愛国心について、本を手がかりに自由に語り合えればと思っています。

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